デザインのある光景Number: 7


Subject:

Mojiko station

Text: Yoshiko Taniguchi

Photo: Kyoko Omori

Mother Comet No.19 | 2017.October

闇が街を包み込む時間帯に、浮かび上がる瀟洒な建物。これは、鉄道駅として初の、国の重要文化財に指定されている「門司港駅」。大正3(1914)年に作られた駅舎は、木部の腐朽や白蟻被害など深刻な老朽化が進んだため、現在は保存修理工事が行われている。素屋根(すやね)と呼ばれる仮設の覆いが施され、全容を見ることはできないが、駅が生まれ変わるその日を心待ちにしている人も多いだろう。

「当時、駅舎には1等から5等までの等級があり、大正10(1921)年の『鉄道広報』によると、最高ランクに指定されたのは全国で54駅。その中で、当時の1等駅が現存しているのは、門司港駅と東京駅だけなんです」。何を聞いても資料を見ることなく即答してくれたのは、産業考古学会の理事などを務める市原猛志さん。頭の中にストックされた膨大な知識を整理しながら、駅の生い立ちについても話してくれた。「現在の門司港駅がある場所は、そもそも人も住んでいない塩田でした。港ができ、人の流れが活発になったことで、門司港駅(旧門司駅)が誕生します。大正中期といえば、門司港の船舶数が神戸港を抜いて1位になった時代。当時の街の勢いを象徴する、ランドマーク的な建築物と言えます」。

時代に必要とされた機能が組み込まれ、街の形成にも影響を与えた門司港駅。現在は鹿児島本線の起点駅としての利用はもちろん、全国的に見ても早い段階から駅舎を観光資源として活用。歴史やエピソードを身近に体感できる点も観光客に好評だ。「昭和63(1988)年、駅が重要文化財に指定したことを契機に門司港レトロ構想(歴史的遺産を活かした街づくり)がスタートしました。北九州の観光という観点からみても、門司港駅は重要な建物。価値ある産業遺産をどう使って、どう活かすのか。この工事は、今後の北九州の観光業を占うプロジェクトになりそうです」。

100年という歴史の中で、様々な改造を重ねた駅舎は、今回の工事を経て大正時代の姿に復元される。中でも、昭和56(1981)年に閉店した「みかど食堂」が復活するという話題は、実に興味深い。新たな魅力を携えた門司港駅の開業は、平成31(2019)年の予定。門司港の未来をデザインする、ランドマークの復活が待ち遠しい。

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